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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)295号 判決

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 第一引用例ないし第三引用例に本件審決認定のとおりの技術内容の記載があること、及び本願発明と第一引用例記載の技術内容との相違点が本件審決認定のとおりであることは、当事者間に争いのないところ、本件審決は、右相違点に関する判断において、第二引用例及び第三引用例には本願発明が企図とした技術的思想を開示するところがなく、また、本願発明にはすぐれた効果があるのに、これらの点についての判断を誤り、その結果、本願発明をもつて、第一引用例ないし第三引用例から容易に発明をすることができるとの誤つた結論を導いたものというべく、この点において違法として取り消されるべきである。すなわち、

1 前記当事者間に争いのない本願発明の要旨に成立に争いのない甲第二号証の一、二(本願発明の特許出願公告公報及び手続補正書)を総合すれば、本願発明は、従来全く望めなかつた実用的耐久性を備えた制電性合成繊維及びその織編物を提供することを目的とし、その目的を達成するために、本願発明の要旨のとおりの構成(本願発明の明細書の「特許請求の範囲」の項の記載と同じ。)、すなわち、合成繊維及びその織編物表面に本願発明の要旨記載の単量体化合物を通常の被覆方法により塗布し、しかる後に重合せしめ、連続又は非連続的被膜を該繊維表面に形成する構成を採用し、これにより後記認定のとおりのすぐれた効果を奏しえたものであつて、ここに単量体を重合させる方法とは、「加熱水蒸気雰囲気中に維持しながら」行うものであり、右重合方法による繊維表面の被膜の形成が本願発明のすぐれた効果に寄与するものであることを認めることができる。

2 ところで、第一引用例には、本願発明のように、繊維製品に付与した単量体の重合を「加熱水蒸気雰囲気中に維持しながら」行い、重合体が繊維表面で「連続又は非連続的被膜を形成する」点について何らの記載もないことは前示のとおり当事者間に争いがないところ、本件審決は、第一引用例に記載のない、本願発明における単量体の重合を「加熱水蒸気雰囲気中に維持しながら」行うという点は、第二引用例及び第三引用例記載の技術内容から、容易に推考しうるものと説示する。しかし、前記当事者間に争いのない第二引用例記載の技術内容及び成立に争いのない甲第四号証(第二引用例の特許公報)によると、第二引用例において、本願発明と同様の混合物の重合を蒸気浴上で加熱させて行う目的は、該混合物が嫌気性硬化特性をもち、空気を排除するときに重合する特性を有するところから、空気を排除して重合を促進させることにあつて、本願発明におけるように、重合を「加熱水蒸気雰囲気中に維持しながら」行い、これにより繊維表面に重合体の被膜を形成させるという技術的思想については何ら開示するところがないことが認められ、また、前記当事者間に争いのない第三引用例記載の技術内容及び成立に争いのない甲第五号証(第三引用例の特許公報)によると、第三引用例は、芳香族線状ポリエステル高分子重合体のグラフト重合方法に関するもので、第三引用例における水蒸気加熱は、「ポリエステルの如き高分子重合体は従来グラフト重合することが困難とされていた」ところ、この困難性を克服し、極めて容易にグラフト重合を可能とすることにあるものと認めることができるから、第三引用例における水蒸気加熱は、前示の本願発明が重合を加熱水蒸気雰囲気中で行う場合とは、その技術的思想を異にするもの(なお、前掲甲第二号証の一、二によれば、本願発明においては、特にグラフト重合の必要はない(本願発明の特許出願公告公報第三頁第五欄第七、第八行)。)というべきである。

のみならず、前掲甲第二号証の一、二中本願発明の実施例2における試験結果を示す表2(別紙参照。なお、右表中「乾熱処理」とは、一六〇度Cで四五秒間の乾熱処理を施したことを示し、「蒸熱処理」とは、加熱水蒸気下、一〇三度Cで五分間処理を施したことを示し、「後」は、洗濯を一〇回繰り返し行つた試料であることを示す。)に徴すると、同表中において、「蒸熱処理」のものは本願発明によるものに相当し、「乾熱処理」のものは第一引用例によるものに相当するところ、蒸熱処理のものは、洗濯前試料も洗濯後試料も、乾熱処理のものに比べて、静電気量(V)の数値が格段に低いことが示されていることが認められるほか、成立に争いのない甲第一〇号証によれば、第一引用例の方法によるときは、繊維表面に連続又は非連続的被膜は形成されず、制電効果も本願発明の制電効果に及ばないことを認めることができるから、前記当事者間に争いのない第一引用例の記載内容に、第一引用例の方法により処理した繊維製品を七五回以上繰り返して洗濯し、ボロボロになつてもなお静電気発生が感知できなかつた旨の記載があるけれども、本願発明の制電効果は、第一引用例記載のものに比べて格別のものがあると認めるのが相当であり、叙上認定を覆すに足りる証拠はない。

3 以上のとおり第二引用例及び第三引用例が本願発明の企図した前示の技術的思想を欠いている点に本願発明の前認定のすぐれた作用効果を総合勘案すると、本願発明をもつて第一引用例ないし第三引用例から容易に発明しえたものとすることはできない。

三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。よつて、これを認容することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

ポリアルキレンオキサイドセグメントを主体とする主鎖の両末端あるいは一方の末端あるいは主鎖の側鎖として少なくとも二個以上のアクリル又は/及びメタクリル基を有する非含第四級窒素化合物の単量体の水溶液を合成繊維に付与し、該繊維表面で、加熱水蒸気雰囲気中に維持しながら、該単量体を重合せしめてなる連続又は非連続的被膜を有する合成繊維及びその織編物。

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